ぱっと見は優男風の大学生の兄は、こう見えて、この家では一番強いのよね。
怒らせちゃいけないのよ、うん。
そもそもあたしの鍛えたのって、実質は涼兄だし。

そのせいか周りの男子に引けを取るどころか、理不尽な奴は叩きのめしてきたわけだけども。
今となってはそれを感謝していいのかよくわからない。

「俺今日サークルで遅くなるから、飯は適当に食ってろよ」
「わかった。いってらっしゃい」

涼兄を見送り、まだ部屋の隅でいじけてるもはや毎日の習慣の父ちゃんに喝を入れ、私も家を出た。

新学期ともなる今日は、見事な晴天。
うん、幸先いい感じ。


「おはよ、椿」

不意に呼びかけられ、振り返ると、そこにはよく見知った顔がいた。

「おはよー、沙雪」

ひらひらと手を振るのは、綺麗な長い黒髪なびかせた純和風美人というべき友人だった。

「おはよう。高瀬」
「おはよ、翔君」

その隣で人懐っこい笑顔を浮かべるのは翔君。
沙雪の幼馴染で、私の数少ない友達の一人だ。

数少ないって、自分で言うのもなんだけどさ……。一応ちゃんと、理由があるのよ。

「お、ホントにかけてんのね」

沙雪が興味津々で覗き込んできたのは、私の顔にあるこれ。

「椿が眼鏡ってねー。昔ならまず考えられなかったわよね。絶対割るから」
「だよねー。あはは、高瀬、別人みたいだね」
「笑いすぎ、二人とも。いいの! あたしは今日から品行方正で地味につつましく生きるんだから!」

そう、これにはちゃーんと理由がある。