ぴくり、と頬がひきつる。
女の子じゃなかったら、バックドロップかましてるわよ。

まあ、きっと入学式でテンション上がっちゃってるのよね。
うんうん、そう言うことにしておこう。

そういって拾おうとしたあたしの前で、にゅっと無数に足が伸びてきた。
床に散らばった資料を無情にも上履きの下敷きになっていく。

さすがに、あたしもちょっと声を荒げかけた。

「ちょっと……」
「大丈夫?」

喧騒を遮ったのは、少し低めの、耳馴染みのいい声だった。

すっと伸びてきた形のいい手が、手際良く資料を集めると、「はい」と私に手渡してきた。

「ありがとうございま――」

言いかけて、あたしは止まった。
その腕の先にはにっこり微笑んだあの人――柏木聖の顔があった。

私は一気に血の気が引いた。

「あ、ああありがとうございます」

ややややばい、今はやばい!
慌てて資料を受け取り、立ち上がる。
どもろうが、気にしてる余裕はない。

「ごめんね、ぶつかっちゃった?」
「いえ、私の不注意だったんで……」

そういってあくまでも穏やかな調子の会長に、あたしは動揺した心で首を傾げた。