しかし、その頬には立派なガーゼ。
痛々しい存在感を放っていた。

真面目そうな人だもの、絶対殴られたことなんかないよ。
ましてや、強烈な回し蹴りなんて。
トラウマになってなきゃいいけど。

「と、とにかく、謝んなきゃ……」
「まあ、待ちなよ椿」

立ち上がろうとしたあたしの腕を、沙雪が引き留めた。

あたしが何、という前に沙雪は視線だけを教室の奥に滑らせた。

見ると、女生徒達が口々にささやきあっている。

“えー、あれどうしたんだろ”
“殴られたのかな”
“顔殴るなんて信じらんなーい”


「今行ったところで、またアンタのあだ名が女王になるだけよ」
「ぐ……」
「ついいでに、こんな人の多いところで女子に回し蹴り喰らわされたなんて、泥の上塗りするつもり?」

あたしは完全に押し黙った。その通りです……。
ぽんぽん、と沙雪はあたしの頭を叩いた。

「放課後生徒会室に行って謝ってきなよ。眼鏡はずしてさ」
「……そうする」