「沙雪~!」
「はいはい。大丈夫よ。椿ならあんなファンの一人や二人は百人くらい敵じゃないでしょ?」

泣きつくあたしを、はいはいと軽くあしらい、沙雪はなんでもないことの風にいう。
それ、言ってること矛盾してない?

その時、クラス内から歓声が上がった。
何事かと思って顔を向けると、あたしは盛大に顔をひきつらせた。

「おお、すまないな柏木。わざわざ一年の教室まで」
「いえ、構いませんよ」

一人は、うちの担任の、ちょっとしゃがれた声。
もう一つは……、なんで生徒会長がここに?!

沙雪の陰に隠してもらい、あたしは様子をうかがった。

「ありゃあ……まさかの展開ね」
「ま、まさかあたしのことバレた?!」
「まさかあ。この学校何人いると思ってんのよ。探し出すだけで一苦労だっつの」

ならいいけど。
あたしはそうっと、廊下を見た。
相変わらず教室からはうっとりする黄色い声が絶えない。

たしかに……見た目は極上だ。
今まであたしの周りがゴツい野郎どもだったことを差し引いても、騒がれるのはわかる。

ただ、なんか別世界というか、浮き世離れしてるというか……。