「俺がおぶってやれなくなるまで太らなきゃいいよ」

「えー。この間は痩せろって言ったくせに」

「朝は機嫌が悪いんだよ。だからアレは嘘だ」



機嫌が悪かったからこそ本音だったんじゃないのか?


ま、いっか。




「げへへ」

「気色わりぃ笑い方すんな」

「だって楽チンなんだもーん」



手を繋ぐよりイノリにくっついていられるしね。



「お前、将来の夢は“精神年齢が上がること”にしろ」




2人してずぶ濡れになりながら家に帰ると、玄関の前で世間話をする私のお母さんと祭(まつり)ちゃんがいた。


祭ちゃんとはイノリのお母さんのこと。



何でイノリのおばちゃんと呼ばないかは、そう呼ぶと祭ちゃんが怒るから。




「ちょっと、やだ。2人ともずぶ濡れじゃない」

「祈くんにおんぶしてもらって。美月は本当に祈くんに甘ったれなんだから」



お母さんはタオルを取りに向かった。




「祈は昔から美月ちゃんが大好きだもんね〜」

「は…はぁ!?何で俺が!」

「照れない、照れない。私も美月ちゃん大好きよー♪」

「祭ちゃーん」



ノリが良くて明るい祭ちゃん。

そんな祭ちゃんが大好きだった。




「ごめんね、祈くん。美月は祈くんが大好きだから甘えたくなるのよ」



タオルを持ってくるなり、サラリと私が口に出来ずにいる事を呟くお母さん。



どうして母親という生き物はこうも口が軽いんだっ!




「それは祈もよね。祈は美月ちゃんを守る事が生き甲斐らしいから」


「あら。よかったわね、美月」



それは祭ちゃんの勘違いだよ。




「美月ちゃんと祈が結婚したら私達も家族よ、清田さん」

「それは嬉しいわ」




勝手に話を進めるお母さんと祭ちゃんを、イノリは呆れた表情で見つめている。