「ところで何か用だった?」

「俺様の暇に付き合え」

「は?」

「10秒後、玄関の前に集合!よーい…ドンっ!!」



イノリはパンと手を叩くと、ベランダを飛び越えて自分の部屋に戻っていった。


つくづく勝手な男だよ、全く。




小走りで階段を下り外に出ると、既にイノリが待っていた。



「遅い!」

「暇に付き合ってあげるだけ有り難いと思いなさい」



空は梅雨の時期だからか、どんより曇っていて今にも雨が降ってきそうだった。



「何処行くの?」

「土手?」

「土手!?」



折角の休日に色気も何もない所に行くワケ?




「最近出来たっていうショッピングモール行こうよ」

「そんな所行って何すんだよ」

「買い物したりカフェ行ったり、プリクラ撮ったり?」

「はぁ?恋人でもねぇのに面倒くせぇ」



さりげなく呟いたイノリの言葉がズキッと胸を軋ませた。


そのせいで涙まで込み上げてくる。



でも悪いのはイノリだけじゃないよね。

気持ちを伝えない私も悪いんだ。





「とにかく、見せたいものがあんだよ」



イノリは当たり前のように手を繋ぐと、そのまま土手に向かって歩き始めた。