死にたい―――
なんて、バカなこと
今までに何回思っただろう。
だけど、今度ばかりは本気で思った。
「…何も、わからないんだ。」
「……え?」
真っ白な部屋。
真っ白なベッド。
真っ白な、頭の中。
二人の視線が
交じっては離れて。
揺れるクリーム色のカーテンだけが、唯一ここにある色だった。
あぁ、神様。
なんて救いようのない夢なんだろう。
こんなのバカげてる。
だから、早く現実に戻してよ。
あたしを騙そうったってそう簡単にはいかないんだよ?
…ねぇ、灯吾。
「いわゆる、記憶喪失ですね。」
「記憶、喪失……?」
小難しい顔をした先生は、灯吾のカルテを見ながら、言いにくそうに眉間へシワを寄せた。
「おそらく、事故のショックかと思われます。」
その瞬間、隣で一緒に話を聞いていた灯吾のお母さんが崩れ落ちる。
あたしはただ、その光景を他人事のように呆然と眺めていた。
だって、あまりにリアリティがなさすぎる。