「貴方のことが好きなのに、邪険にするんですか?」


囁くように言う台詞は、今日既に聞いていたのと同じなのに、酷く気持ちが悪かった。
何もかも吐き出してしまいたい気分を抑えつつ、私は嵩村を睨みつける。


「そんな瞳もいいですが、もっと違う瞳も見てみたいですね。例えば僕に許しを請うような瞳とか」


どう転んでも、この男にだけは気を許すことがないだろう。

 
そう再確認した瞬間、掴まれていた顎を無理やり動かし、私はその手に噛み付いた。
驚いた嵩村が私から距離を開ける。

 
地が滲むほど、噛んでやりたかった。
出来るならばその汚らしい指を噛み千切ってやりたかった。

 
だが、すぐに嵩村は私の口から手を外し、そのまま私の頬を叩いた。
反射的な行動なのだろう。


 
つまり、それがこいつの本心だ。
所詮、私を道具としか見ていない。

 
好きなら噛み付かれたぐらいで叩くのか?
そんな血相をかかえた表情で、女に手をあげるのか?

 
これが誰かの作ったドラマなら、なんて陳腐なシナリオだろう。


 
同じことを、私は斑鳩にもした。



「お前……うちの会社との取引がなくなってもいいのか」


なんてベタな台詞。
親の七光りでぬくぬくと育った坊やには、ありきたりなことしか思い浮かばないのだろうか。

 
可笑しくて、笑いがこみ上げてくる。