「じゃあ」


私が口を開くと、嵩村が軽く目を伏せ、用件を伺う執事のような表情を作る。


「私の視界から、消えてくれる?」


笑顔を作る気にもならなかった。
素直に口から出た言葉は、一瞬嵩村の顔をひくつかせる。


だが相手もこういったことに慣れているのか、それとも慣れていないが引き下がらないのか、多分後者だと思うが、すぐに笑顔を作り直して私の右手を取る。


「ご冗談を。そうですね、まずは何か洋服でも」

「結構よ、人から施しを受けることのは嫌いなの」


大通りの歩道でまるで安っぽいドラマのようなことをしている。
そんな私たちを通り過ぎる人達は好奇の目で眺めていった。

それでも、この男は引き下がるということを知らないらしい。


「ならば、一緒にお食事でも」

「貴方に耳は無いのかしら? いい加減、消えてくれる?」


私がさっさとこの手を振り払えばいいことなのかもしれないが、歩きではまたしても追いかけられてきてしまう。
そんな面倒なことになるぐらいなら、今きっぱりと追いやっておきたかった。

 
だが、それは失敗だったらしい。
嵩村の瞳の色が変わった。

 
そしてすぐに私の右手を引き、顎を反対の手で掴まれ、顔の上に影が出来る。


「んっ……」


一瞬のうちに私の口は塞がれ、口内に生暖かい感触が流れ込んできた。
抵抗しようと腕に力を入れたところで、舌が引き抜かれ唇が離れていった。

 
卑しい笑みが、私のすぐ目の前で広がる。