「こんにちは」


軽薄そうなスーツの男が、確か嵩村(たかむら)とかいう名で親の会社に入って働いていた気はしたが、気持ちの悪い笑顔で声をかけてくる。

私に止まる気はない。
この男は初対面のときから苦手だったし、何ってその似合わない香水が嫌いだった。


「どこか出かけるんですか?」


私が止まらなくても気にならないかのように、嵩村は喋り続ける。


「宜しかったら乗っていきませんか?」


ただのナンパと違わない。
この男にはプライドというものがないのだろうか。

 
私は全く興味が無かったが、父の話に寄ればそれなりに付き合いを求める女性はいるらしい。
ならばそちらと仲良くやっていればいいものを。


「駄目ですよ、高校生なのにこんな午前中から制服で歩いていたら」


ちっとも心配していないその声が、気持ち悪かった。
思わず足を止め嵩村を睨むと、車もほぼ同時に停まり後部座席のドアが開く。
そしてゆっくりと降りてくる。

 
無駄にお金のかかったスーツ、磨かれた靴。
有名ブランドの時計、下品な香水。

 
全てが親の金だろうに。
それを身につけ、自分のステータスを高めているというのか。

「もしかして学校をサボったんですか? なら、どこか貴方の好きなところに連れて行って差し上げますが」


髪に匂いが染み付くかと思う程、嵩村が近くに立つ。


「貴方みたいに美しいお嬢さんでしたら、望むがままに」


どこで学んだのかと問いたくなるような表情。
これを世の女性が好きだと言うのか。
安っぽいホストと大差がない。