斑鳩の表情は、それでも少しも変わらなかった。
横を向いたまま、眼鏡の奥から私を見る瞳も、普段と変わらないように見える。

 
それがまた、憎たらしかった。
普段から何も考えていないような瞳で私を見ているのは気にならなかったのに。
何故、今はこんなにも嫌いなのだろう。


 
動かない斑鳩の横を通り抜け、私は生徒会室を出た。
ある程度生徒は登校してきているらしい。
幾人かとすれ違いながら、私は玄関へと廊下を歩いた。


途中、生徒会室に向かおうとしている佐野さんとすれ違う。
彼女は小さく頭を下げたが、無言で通り過ぎる私を驚きの目で見て、私の背中に向かって何か言葉を発していた。

 
でも、振り返る気にもならない。
早く生徒会室に行って、あの彼氏でも慰めてあげれば、と思っていた。

 

そう、斑鳩は佐野さんと付き合っている筈。
なのにあんなことを言うなんて、それは男としても疑うけれど。

冗談で、ちょっと私をからかおうとでも思ったんだろう。

 

変な笑いが浮かんで来た私は、皆が入ってくる玄関を一人逆に進んだ。
荷物は生徒会室に置いたままだったが、取りに帰る気なんてさらさらない。
携帯電話だけスカートのポケットに入っていた。

 
嶌田を呼ぼうか迷って、逡巡するもあの男に会う気もしなくて歩くことにする。
すれ違う生徒が、皆何事かと私に注目している。

 
それが今は気にならなかった。
妙に清々しく歩けるのがまた可笑しい。

 

心の中はちっとも清々しくない。