冷血がーるの恋物語。






「今日はあれ、言うために一緒に帰ろうって言ったんだ。分かってるでしょ?」



実は、何を恐れているのかを、気付かないふりをしているんだ。



思い出したくないから、見透かしてしまう存在である奴との、関わりをなくそうとしているんだ。




「実ったら、本当、心配性。あたし、もう平気なのに。」




「なら、いいんだけどね。」




「てゆうか、実こそ忘れてよね。」











実には言わないけど、あいつも何かを隠してる。





誰とでも仲良く、近く見えて、実際は一線をおいてる。




不思議と分かってしまうのは考えてることが同じなのかもしれない。





「…あたしも同じクラスだし、大丈夫だと思うけど。何かあったら言ってね?」



「うん、大丈夫。」



あたしのこの態度が、実をもっと心配させてるんだろうけど。





「大丈夫だよ、実。あたしはへーき。」





あたしには、こうすることしか出来ない。











「はーよ。」





大河の横を通って自分の席につこうとしたとき。




満面の笑みを浮かべて奴はあたしの行く手をふさいだ。




「……おはよ。」





後ろから、実のイタイ視線に気付きながらもなぜか通り過ぎれないあたし。





「今日一緒に帰んない?」



優しい台詞に。頷いてしまうそうになるけれど。












「…無理だから。」



「いーじゃん。あ、実ちゃんに止められてんだ?」




そっかそっか、と1人愉しげに呟いてから。




いきなり真顔になるのは、こいつのテクってやつなんだろうか。




「でも、無理って言っても聞いてやんない。俺にだって人権あるわけだから。」




「人権はあっても、この話とは関係ないでしょ?」










その言葉に、待ってましたと言わんばかりの微笑みを浮かべあたしの手を引いて自分に引き寄せる。




「そんじゃ、最終手段。…昨日さ、調べたよ。水谷サンのこと。」




「……っ。」




大河の言ったことが、嘘だったとしても。




あたしに何かあるってことは、この時間だけで十分だった。





「…決まりでいい?」





「…本当にうざいから。やだ。」





そう吐き捨てて、自分の席に着席する。











大河は本当に、あたしのことを調べたんだろうか。




何の根拠があって、調べるなんて行動にでたんだろうか。




あたしに心当たりがあったとしたら…。




(…ないない。)




そこまで考えて、やめた。




そんなこと、絶対にあり得ないんだから。




てゆうか、冗談かもしれないし。




(帰りも気にせず、しかとしよう。)




心に決めて、教室で淡々と授業をする先生に目を向けた。











「帰らないの?実。」




帰りまでずっと、大河をしかとし続け。



やっと放課後。




なのになかなか帰ろうとしない実にあたしは痺れを切らして、尋ねた。





「珍しいじゃん、莉空からこっちくるの。」




ええ。



1人だとじつに席で待ってるのがキツいもんで。




それにあたしはなるべく早く帰りたいっていう欲望があるんですよ。













「帰るなら早く帰ろうよ。」




「今日は委員会。だから帰れないってさっき言わなかったっけ?」





そういって、冷ややかな視線を見せる。




「…あ、…そう。」




こうなったら即行帰るしかない。




これだけでも、かなりの時間を要してしまったわけで。



「……どうかした?」




急に心配そうな目付きになって、あたしの顔を覗き込む。










…でも。





何かあったわけでもないのに実に、言えるはずない。





「何そんな顔しちゃってんの?何もないから。」





「…そ?」




一瞬、実の顔が曇ったのは。




何か気付いたんだろうけど。




あたしはそのこと自体に気付かないフリをした。






(じゃあ急がなきゃ。)