冷血がーるの恋物語。





「…え、誰?」



大河が引きつった笑顔を浮かべる。



友達、て言葉がこいつの頭に出てこないのが余計にあたしを不愉快にさせた。




「…友達。」



「いたんだ。」




プチ、と何かキレるような音がしたのは気のせい!



こんな奴に構っちゃいけない、あたし。



「意味わかんない、ムカつくからどっか行って。」



どうにもなりそうもないからとりあえず拒否の印を見せる。










「ちょっとー、莉空。いいじゃん。」



ぶぅーと頬を膨らませているのは大河じゃなく実。


なんで、あんたが拗ねてるんだって。



「今日一緒に帰ろうよ!もう1人誰か誘ってさ。」



(こっいつはー…!)



次から次からいろんなことを仕組んでくる。


「じゃあ俺の友達でいい?」


(あんたも…いい加減にしてよ。)



と、冷たい瞳で顔を上げるとちょうど大河と視線がぶつかった。


そしてふっと口角を上げて笑われる。




「……いいじゃん。親睦深めようよ。」




とてつもないくらいの、悪寒がした。










なんでこんなことになってるんだろう。



あたしの隣には原野大河。



そして普段ならいなければならない存在が、この隣の魔神の友達と仲良くおしゃべり。




「…なにこれ、鬱陶し…。」



こんなふうにもれてしまった溜め息すら、実には届かず。



提案者には、その場を仕切る義務があるってのに。










「溜め息つくなよ。めんどくせえ。」



その上さっきまで憎い女子共にきらっきらの笑顔を振りまいていた大河は面倒くさいときた。




「五月蝿い。しゃべんないで。ムカつくから。」


我ながら酷い言いっぷり。


「水谷サン本当に性格悪いね。」



顔をしかめて面倒くさいと言ってた奴にそんなこと言われたくないけれど。




「そりゃどーも。言われなくても知ってますが。」



3メートルくらい先を歩いているもう一組の背中を見ながら応えた。











「しかもお前、俺の話聞く気ないね。」



「何?あたしと話すことでも?」




「それもないね。」




こっちを向いて、テンポのいい会話に大河が笑うもんだから。



あたしもつい、吸い込まれた。




「水谷サン、笑わないほうがいいよ。」



取って付けたようなサン付けに、少しイラつきを感じながらも、もう一回。


大河の台詞を繰り返す。





笑わないほうが、いいよ。




…は?











「…どーゆうことよ。」



「男が寄ってきて大変だよ、って話。」




想像もしていなかった言葉に、出ようとしていた罵声も、とまる。



「…なにそれ。」




「そのまんま。」





ちらりと横目で大河の顔を見てみるも。



いつもと同じ、凛とした表情で。




真意は確かめられなかった。




「おいー。さりげなく水谷さんくどくなよー?」




前の2人が冗談めかしにこっちを向いて笑いかける。











なんてタイミングのいい方たちなんだろう。




「(そうだった…。)」





こいつは、そうやって女をおとしてきたんだった。



やだやだ。



さっき決意したばっかじゃん。



深入りしちゃいけないって。







気が付かなかったけれど、気持ちを封じ込めることを覚えたのは。



このときだったのかもしれない。











「くどいてねーよ!」




こうやって笑顔を見せるのも、きっと何かを隠しているから。





「…お前さあ、何か勘違いしてねーか?」




からかう友達を制してから大河はぼそっと小さく呟いた。




「何?」





「…なんでもない。」





本当に、読めない。



首を一捻りしたところで。



再び大河に問われる。












「水谷サンて、昔からこんな?」




「こんなって?」





「昔からそんなに冷たいのかって聞いてんの。」




少しは言いずらそうに言ってくれればいいものを。




溜め息をつきつつ、仕方なく答えようとした。



のだけれど。




「そ。昔から、莉空はこんな。」




いつのまにか隣に来ていた実がわざとらしくあたしの肩に手を絡ませながら変わりに答える。