「たぶん、あっち・・・。」

ケントは自信なげに指さした。

あっち・・・って。

この期に及んでいい加減なケントに怒る気も失せていた。

とりあえず、こんなところでずっといててもしょうがない。

どこかに向かって泳いでいくしかない。

私は信じる信じないは置いておいて、ケントの指さす方に向かってボートを押しながら泳いだ。

テツヤくんは相変わらず表情を失ったまま、ボートと一緒に付いてきていた。

もう。

テツヤくんは男なんだから、もう少ししっかりしなさいよ!

って檄を飛ばしそうになったけど、しくしく泣いてるナホの前ではそんなこと言えるはずもないわね。

重たく、冷たい体をなんとか振るい立たせて泳ぐ。

どれくらいの時間がたっただろう。

さすがに波にのまれながらの移動は体力的な消耗が激しかった。


ふいに海の怖さに包まれる。

このまま。

誰にも見つからず、どこにもたどり着けなかったらどうしよう?

底の見えない暗い海。

怖い。

心臓がドキドキいいはじめる。

「ケント。」

「ん?」

「こわい。」

すがるものがなくて、ケントに胸の内を伝えた。