テツヤくんはふいに口元を押さえて、ボートの外に顔をやる。

波の音の合間に、テツヤくんの嘔吐音がかすかに聞こえた。

かわいそうに。

この揺れで酔っちゃったんだ。

「ケント~!まじで怒るよ。」

私はボートにしがみつきながら、力一杯ケントをにらみつけた。

「ん、もうすぐ。もうすぐのはずだって。」

「何がもうすぐよ?!」

「俺の予想では、この辺に小さい島があるんだ。でもさ、おかしいな。」

やっぱり。

何か企んでると思ったら、やっぱりよ。

勝手に誰の相談もなしに、ボートで向かってる先が奴にはあったわけで。

ケントみたく、成り行き任せ野郎の目的地なんて、あってないようなもん。

今までにないくらいの怒りが胸の奥からわき上がってきた。

「いい加減にしてよ!ケント!あんたって奴はどこまでいい加減なことに付き合わせたら気が済むの!」

思わず縁から手を離して拳をあげた。

それがいけなかったのか、ボートは大きく左右に揺れたかと思ったら、私の反対側に一気に傾いた。

「うわっ、やばいって!」

はじめてケントが叫んだ。

その瞬間、一気にボートはひっくり返った。

「キャー!助けてっ!」

ナホが大きな声で叫ぶ。

ひっくり返ったと同時に、私たちは海に放り出された。

一気に衣服に海水がしみこみ、体が重くなる。

私はひっくり返ったボートにしがみついた。

「ナホ?大丈夫?」

震える声でナホを探す。

ボートの少し向こうに、おぼれかけのナホを見つけた。