紀子はいなかった。

 雅代さんに聞くと、

「今日は体調が良くないみたいなの」

 って言われて、それならメールが返ってこないのも仕方ないと思って安心した。

 他に客はいなかったから、雅代さんと二人で飲んでたら店の電話が鳴り出して……。

 正樹君だったよ。

 紀子が――……。



 そこで勝彦は言葉を詰まらせた。

 私が知らないと思って、口を結んだんだと思う。

「睡眠薬を大量に飲んで、自殺を図ったんでしょう?」

 自ら促すと、勝彦は首を縦に振った。

「記憶が無くなったと聞いて、ショックだったよ。でも、紀子を手に入れるチャンスはここにしかないって思った。振られた時に俺となら幸せになれるだろうけど、って言ってたから、それに賭けることにしたんだ」