記憶がなくなって、知らない場所にポーンと放り込まれたような気持ちだった。

 それに順応しようと無意識に努力をしていた。

 彼女や正樹を家族だと言われても、100パーセント信用はしていなかった。

 記憶がないから、確信を得ることができない。

「家族だなんて、嘘だったのよ」

 いつかこんな風に言われても大丈夫なように、ある程度距離を取ってきた。

 だけど、今なら信じられる。

 100パーセント、何の疑いもなく。

 この気持ちを言葉にするなら、安心感。

 勝彦に守られてると感じる安心とは少し違う、もっと大きな安心感。

 私は小さい子供のようにわんわん泣いた。

 涙が落ち着くまで母にあやしてもらった。

 幼少時代の記憶を取り戻すように。