ソファに腰掛けジュースを一口飲むと、母はソファではなく絨毯に座った。

 私と向き合う位置にあたる。

「どうして本当のことを知りたいの?」

 本当のことが知りたい理由なんてあるのだろうか。

 嘘をつかれたとわかって喜ぶ人間はいないと思う。

「それが、あたしの歴史だから」

 私の答えに小さく「そう」と呟き、母は説得に入る。

「あなたはね、記憶を無くす前、すごく辛い状況だったみたいなの。私はね、母親として恥ずかしいんだけど、苦しんでいることに気付いてあげられなかった。だからせめて、今みたいに穏やかに過ごして欲しいのよ」

 ハッキリと言葉にはされていないが、言いたいことは汲み取れる。

 本当のことを言いたくない。

 知らないままでいて欲しい。

 そう言っているのだ。

「知りたいの。気になるの。何もわからないままじゃ、また精神的におかしくなっちゃう」

 また、の部分をさりげなく強調した。

 母は気付いただろうか。

 また、ということによって、私が色々調べ上げているということを。