「かっちゃんのこと、思い出そうと思って」

 笑顔のままそう告げると、切ない顔になった。

 そんな顔、させるつもりじゃなかったのに。

「何か思い出せた?」

「ううん、何も」

「無理しなくていいよ。一緒に暮らせて、俺は今まで以上に幸せだから」

 唇を重ねると、胸がキュッとなる。

 今まで以上に幸せだなんて、無理しているのは勝彦の方じゃないだろうか。

「食べよう」

「うん」

 こんなに優しい彼がいながら、どうして心を病んでしまったのか。

 きっと相当な何かがあったのだろう。

 私は心の中で、もっとショッキングな何かを受け入れる覚悟を決めながら、勝彦の作った夕食を頂いた。

 一緒に風呂に入り、ベッドへ。

 堕胎の事実を知ってしまった私は、初めて彼との営みに抵抗を感じた。

 しかしそれを気付かれないようにするのは、意外と簡単だった。