止まったまま目だけを泳がせている正樹の口から、私はタバコを抜き取った。
「ここに来るのが珍しいだなんて、嘘なんでしょう?」
「何言ってんだよ、姉ちゃん」
「それでバレたのよ、お医者さんに」
「は?」
私は一枚の紙をポケットから取り出した。
同意書の、コピー。
三宅産婦人科の応接室であの同意書を見たとき、私はなぜか笑いを漏らしてしまった。
本人 十和田 紀子
配偶者 十和田 正樹
書類にはこう書かれていた。
笑った私は、二人の産婦人科医にとってさぞ不気味だったことだろう。
院長は、観念したかのように話し出した。
「あなたたちのことは、実によく覚えています」