僕はジョイフルで、さっき買ったばかりの全国道路地図を広げていた。

「ここから関越自動車道に乗って、長岡で北陸自動車道に・・・」

沙希ちゃんに地図を指でなぞりながら説明する。

「ふーん・・どれくらい時間かかるの?」

「ノンストップで10時間以上・・」

「うひゃ〜、遠いんだねぇ」

「日本の約半分を移動する訳ですからね。あ、途中で運転代わって下さいよ。それから・・」

僕は本題であるここあさんの事を話そうとした。

「ね、新潟って何で有名?」

「そりゃあ、お米と日本酒、それにカニですかね?」

「カニ!」

「日本海で水揚げされたものを直接食べれますから、その辺で売ってる物とは比べようのない位旨いって話ですよ。それでですね・・」

「カニかぁ・・。食べれるかなぁ・・」

「はい。ホテルの夕食は奮発してカニ料理コースにしましたから食べれます。でですね・・」

「ほんと!?やったぁ!」

もう彼女の頭の中はカニだらけになっているのだろう。僕が何を話しても結局はカニの話になった。

「でですね、沙希ちゃん。今回もう一人連れて行く事になったんです。権田先輩の婚約者で名山さんて言う人なんですけど」

「えっ!二人きりなんじゃないの?」

「すいません。どうしてもって言われて断れなくって・・」

「どう言う人?」

「どう言う人って、だから婚約者ですよ」

「だから何してる人?」

僕は正直、焦っていた。
婚約者って設定までは考えていたが、それ以上の事は考えてなかった。

「え、えっと。確か下着関係の仕事じゃなかったですかねぇ・・」

「へぇ、デパートの下着売り場にでも勤めているのかなぁ?」

「ま、まあそんなもんじゃないですか?はは・・」

僕はひたいに汗が浮かんでくるのが分かった。
本当の事を話したら彼女はどんな顔をするのだろう。

本当の事は話すつもりはなかったし、その話は墓場まで持って行くつもりだった。

願わくば、ここあさんの口がつい滑って、みたいな状況にならなければ良いのだが。

昼食を終えて図書館に彼女を送った。

「ねぇ?今日の夜・・」

「ダメですよ。明日は長距離を運転するんですから」

「ケチ・・」