ここで問題が一つ生じていた。
今朝の電話でここあさんが一緒に新潟に着いて来ると言うのだ。
僕は当然の如く断った。そんなの沙希ちゃんにどうやって説明しろと言うのだ。
ここあさんは言った。
「そんなのどうとでも言い訳は出来るわ。私が失踪した権田の婚約者とでも言えば良くて?必ず私も連れて行きなさいよ。さもないと――――」
それから先は思い出したくもない。
ここあさんは僕を脅しにかかってきた。
何度も言うようだけど、女って本当に怖いですね。
それでも前に進む為には、ここあさんの意志も汲んであげなければなるまい。
愛しい人が突然いなくなってしまった、その気持ちを考えれば、少々手荒な真似をしてでも行方を追いたいと言うところだろう。
僕は街の旅行代理店へと重い足取りで向かった。
旅行代理店でいろんなプランを吟味した結果、自由な時間を使いたいと言う事もあり、移動は車を使う事にした。
新潟まで片道を10時間以上かけて走らなければいけない。
僕は車の運転は好きだったし、沙希ちゃんも運転できる。
ここあさんはどうか知らなかったが、運転者が二人いれば、まあ何とかなるだろうと踏んでいた。
旅行代理店で宿泊先は『ビッグスワン』に程近いホテルを予約した。
ツインの部屋とシングルの部屋を。
今日は木曜日だから、出発は明日の沙希ちゃんの仕事が終わるのを待って、と言う事になる。
僕はその足で書店に行き全国道路地図を手に入れた。
そうこうしているうちにもう正午前になっていた。
僕は沙希ちゃんにお昼を一緒に食べよう、とメールして図書館の駐車場へと向かった。
彼女はいつもお母さんの作ったお弁当を食べていたが、僕のアパートから出勤した今日は、お昼ご飯のあてはないだろう。
しばらく駐車場でメールの返信を待っていた。
と、突然車の窓をコンコンと叩く音にはっと振り向いた。
沙希ちゃんだった。
「やっぱりここにいたぁ」
彼女はハアハアと息を切らしながら喋った。
「勇次くんからのメールを見てね、きっと駐車場にいるんだろうなって思って、返信するより早いから走って来ちゃった」
「さすが気持ちは通じてますね」
「そりゃそうでしょ。ねぇお腹すいたぁ!」