「ほら、早く起きなさい!」

沙希ちゃんの声で目が覚めた。

「無職だからってダラダラしちゃダメだよ。ちゃんと一日一日を大切に生きなきゃね」

彼女も変わったな、と思った。
僕が彼女の自宅を訪問した時くらいからだろうか。
お母さんみたいな口をきくようになっていた。

「まったく・・冷蔵庫の中にはろくなもんが入っていないじゃない。これだから男の一人暮らしは・・」

ぶつぶつ言いながらフライパンに卵を乗せている。

「ねー、牛乳買って来てよ。あたし毎朝牛乳飲まないと調子出ないのよね」

「牛乳・・ですか?」

僕はまだ眠っている目を擦りながら言った。

「うん。そこの酒屋さんにも牛乳くらい置いてるでしょ?あ、あとソーセージも」

僕は起きたままの姿でスリッパを突っかけ酒屋まで歩いて向かった。

酒屋の前には小さな公園があり、その木々から蝉の鳴き声が聞こえてくる。

(ツクツクボウシか、もうすぐ秋だな・・)

暦(こよみ)の上ではすっかり秋だが、この日も朝から容赦なしに太陽が照り付けてきていた。

酒屋で牛乳とソーセージを買い、アパートへ戻ろうとした時にここあさんから着信があった。

「もしもし?どうしたんです、こんな朝早くから」

「ももちゃんの出身地が分かったの」

「へえ、で、どこなんです?」

「新潟よ―――」

パズルのピースが二つ合わさった――。





朝食を終え、沙希ちゃんは出勤していった。

アパートを出る前に寝室にある僕の母親の写真に手を合わせ、何やら話し掛けていたが、僕には良く聞き取れなかった。

ももちゃんの事は話さなかった。
それは『果樹江悶』の話まで彼女にしなければいけないと言う事だから。

僕は彼女を送り出したあと、今日は旅行代理店に行ってみようと思っていた。

新潟までの交通手段にいまいち自信が持てなかったのと宿泊先のホテルを予約する為だ。

もちろん『大分トリニータvsアルビレックス新潟』のチケットも手に入れるつもりでいた。

アルビレックス新潟の本拠地『ビッグスワン』も『ビッグアイ』と並ぶほどの真新しいスタジアムと聞いた。

二つのスタジアムは2002日韓ワールドカップの開催地でもあった。