「これこれ!」
出てったと思ったらすぐに戻ってきた沙織ちゃん。
手には一升瓶を抱えていた。
茶色い一升瓶に白いマーカーで『権田専用』と書かれてある。
(シャアかよ・・)
ラベルを見ると、
●越乃寒梅 特撰 吟醸酒 1800ml
石本酒造 平成6年度全国新酒鑑評会金賞受賞蔵元。
新潟県産
■創業 明治40年 (1907年)
■所在地 新潟県新潟市北山○○○−1
とあった。
(友人が造ってるって、こんな有名な酒だったのか)
お酒を飲まない人でも一度位は耳にした事がある程の有名なお酒だ。
一升瓶には半分程の液体が残っていた。
「沙織ちゃん、一杯頂いて良いですか?」
「うん、勇次くんなら大丈夫でしょ?ちょっとグイ呑み取って来るね」
沙織ちゃんにグイ呑みを貰って注いでもらう。
「どお?」
(旨い!)
口当たりが良く、ちょっと辛いがその辛さが何とも言えない程に喉を擦り抜けてゆく。
「これは美味しいです。もう一杯・・」
「ダメダメ!権田さんが来たらがっかりしちゃうよ、そんなに飲んだら・・」
「ですよねぇ〜」
頭の中で一つのパズルピースを置いた。
沙希ちゃんが一升瓶のラベルを見ながらこんな事を言った。
「ねぇねぇ、新潟って言えば今度のアウェー戦だよ、トリニータ」
「いつですか?」
「土曜日。確か18:00のキックオフかな?」
(新潟か・・Jリーグの中でも熱狂的なサポーターが多いと聞くな・・)
僕は権田先輩がいるかも知れない新潟に思いを馳せた。
「沙希ちゃん。行ってみます?新潟」
「えええ!新潟だよ?遠いよ?」
「行きたくないんですか?」
「そりゃ行けるなら行きたいけど・・」
僕は頭の中で貯金通帳とにらめっこをした。
(まあ何とかなりそうだな)
「じゃあ、行きましょう。で、新潟ってどうやって行くの?飛行機?」
「おーい!そっからかよ!」
それまで黙って聞いていた沙織ちゃんの突っ込みが痛かった。
新潟へ―――――。
権田先輩は本当に新潟にいるのか?
僕のパズルのピースはまだ一つしか乗っていなかった。