火曜日。
いつものように出勤する。郵便受けの中身を持ってエレベーターで四階へ。

エレベーターの扉が開くと事務所の前に人影があった。

那比嘉さんだった。

彼女がこんな時間に出勤してくるのは珍しい。
よっぽどの事がない限り9:00ギリギリに駆け込んであわや遅刻と言うような事が何度もあった。

僕が思うに沖縄出身の人ってあまり時間を細かく気にしたりしないんじゃないかと。
良く言えばおおらか、悪く言うとルーズって事になるかも知れない。

いや、これは僕の回りにいる沖縄出身の人だけに当て嵌まるものかも知れないので、お気を悪くしないで貰いたい。

「おはようございます」

僕は那比嘉さんの後ろ姿に声を掛けた。

「お、おはようございます」

彼女は僕を振り返りお辞儀をしながら言った。

「どうしたんですか?やけに早いじゃないですか」

カードキーで開錠しながら言う。

「あ、えと、たまには勇次さん手伝おうかな、と思って」

「僕なんて大した事してないですよ。ただ早く来てるだけなんですから」

「えと、机拭いたり、床掃いたりしてるでしょ?」

「まあ早く来てもする事ないですからね、そんな事位しか」

「えと、今日から私も手伝いますから」

那比嘉さんは確か我社の取引先の社長だか専務だかの娘だ。

四大を卒業して僕と同期で入社した。
ただ彼女は現地採用のコネ入社の為、肩書はアルバイトと言うものだった。

『修行』と称して取引先の会社で働く。
自然と周りの対応は甘くなる。『修行』ならばその辺のコンビニなんかで働いた方がよっぽど『修行』になるのではないか、と僕は思う。

現に彼女も甘やかされ、ミスしても良いような仕事しか任されていないでいた。

それがどう言う風の吹き廻しなんだか、朝の雑用を手伝うと言っている。
気まぐれでそんな事を言われても迷惑を被るのは僕の方だ。

(どうせ永くは続かないだろう)

僕もそんな気持ちで彼女を見ていた。

「那比嘉さん、そう言えば昨日のお茶煮えたぎってましたよ」

「え、あ、そうですか?すいません・・」

(気付いてない筈ないんだけどな・・あんなに熱いの・・)

ともかく、この日から朝の雑用は二人になった。