少し彼女が落ち着いたところで僕はキッチンに立った。
小振りの鍋に牛乳を入れて火にかける。温まってゆく牛乳の膜をスプーンで取り除き、多めに砂糖を入れた。
「これ飲んでお風呂入って寝ましょう。寝不足じゃ僕や千尋ちゃんを守れませんよ?」
「・・うん・・そだね、ありがとう・・」
沙希ちゃんはカップのホットミルクを一口飲んで、
「甘くてあったかい・・安心する・・勇次くんみたいだね・・」
と、言った。
沙希ちゃんがお風呂に入っている間、僕はある事を考えていた。
冷蔵庫の中にそれらがあるのを確認し、新潟で沙希ちゃんが買ったおもちゃの『飛び出しナイフ』を探したが見つけ出す事は出来なかった。
(沙希ちゃんに聞くしかないか・・)
できれば彼女の手を煩(わずら)わしたくは無かったが、アレが無いと困る。僕は彼女がお風呂から出てくるのを待ってから尋ねてみた。
「ああ、アレね。あたしの車にあるよ。護身用で置いてあるの、役には立たないけどね。お守り代わり」
「それ明日貸して下さい」
「良いけど、何に使うの?」
「実は―――」
僕は、この計画の全てを彼女に打ち明けた。上手くやれば一石二鳥。もし失敗しても那比嘉翔子を驚かしてやる事くらいは出来る筈だ。
「ふうん。何かバカみたいだけど、やってみる価値はありそうだね。でも後で千尋ちゃんに怒られるよ?きっと」
「そうかも知れません。でも、これはチャンスだと思うんですよ」
「で、ビニール袋の中身は?」
「冷蔵庫の中にありますよ。・・じゃあ僕もお風呂に入って来ますね」
「あ、勇次くん!」
「ん?何ですか?」
「早く出て来てね・・お風呂・・」