カウンター上部に貼ってあるお品書き。
『店主自慢・鶏煮ータ』
これか。
沙希ちゃんからは背中越しで見えない為、僕は指を指して教えてあげた。
「あれじゃないですか?」
沙希ちゃんは振り返りお品書きを確認すると顔がパアっと輝いた。
「お父さん!ありがとうございます!あたしトリニータのサポーターなんです。とっても素敵なネーミングセンスですね!」
(素敵・・なのか?)
親父さんはカウンターの中からこっちを見て誇らしげに手を挙げた。ニコニコと笑いながら。
あんな親父さんの顔は今まで見た事ない。
「沙希さん、あまり調子にのせないで下さいね。いっつもそれで失敗してるんだから」
「でもこれおいしー!ほら食べてみて!あ〜ん・・」
箸で器用に鶏の煮付けを摘むと僕の口に近づけてくる沙希ちゃん。
それをジッと見ている沙織ちゃん。
僕は一瞬戸惑ったが、鶏の煮付けをパクっと食べた。
旨い。
「はいはい。ごちそうさま」
そう言って沙織ちゃんはカウンター中に入って行く。
「ここのお店良く来るの?」
「はい。会社の先輩のお供でちょくちょく」
「ふぅーん。全然誘ってくれなかったね・・」
「だって沙希ちゃん二ヶ月前に二十歳になったばっかりでしょ?誘えませんよお子様なのに」
「あー!馬鹿にした。もう良い、ぐれて飲んでやる」
「ちょ、ダメダメ。急性アルコール中毒になったらどうするんですか!」
それから暫くは僕と沙希ちゃんはたわいもない話で笑い合った。
僕は今まで飲んだ事のないような量のビールを口にしたが不思議と酔っ払うような事はなかった。
沙希ちゃんは中ジョッキ一杯飲んだだけで烏龍茶に代えていた。
「沙希ちゃん、何か話したい事でもあったんじゃないですか?」
僕は会話が途切れた時を狙って聞いてみた。
「うん・・無いって言ったら嘘になるかも知れないけど、久しぶりに勇次君に逢いたかったって言うのが本音かな?」
「そうですか、僕はてっきり深刻な相談でもされるんじゃないかって思ってたんですよ?お酒が飲みたいだなんて言うし」
沙希はわざとらしく「あはは」と笑った後にこう言った。
「今日泊まりに行っても良いかな・・」