「やっぱり似ている・・」
寝室のベットの前で沙希ちゃんが呟(つぶや)いた。その手には千尋ちゃんがやっと離した母親の写真がある。
「何がです?」
「さっき見た社長さんと勇次くんのお母さんだよ。目元なんかそっくり・・」
「そうですか?どれどれ?」
「そして勇次くんにも似ている・・」
「ちょ、止めて下さいよ、気持ち悪いなぁ。そんなに似てますか?僕にはそうは見えませんけど」
「勇次くん、社長さんの素顔見た事ある?」
「何言ってるんですか、ある訳ないじゃないですか」
「化粧落としたらそっくりだと思うんだよね・・」
「そうかなぁ?ま、でも他人の空似でしょ、どうせ。僕はあんなに優秀な頭を持ってませんし。――何か疲れましたね。休みましょうか?」
「ちょっと待ってよ、あたしまだシャワーしてないんだからね!」
「先に寝ちゃって良いでしょ?明日は朝が早いんですよ」
「待って、待って!ちゃっちゃっと浴びて来るから先に寝ないでよね」
そう沙希ちゃんは言い残し浴室へと消えて行った。
「似てると言えば似てるけど、化粧した女の人ってみんな同じような目をしてないか?」
母親の写真を片手で宙に浮かし、独り呟いた。
「ねー、次の京都戦どうする?」
沙希ちゃんが半乾きの髪をタオルで巻きながら言った。
「どうするって、行くに決まってるじゃないですか。市陸ですよね?」
「へへへぇ・・」
「な、何ですか・・」
「いやぁ〜、勇次くんもいっぱしのサポーターになったんだなぁ、って思って」
「ま、まあ。沙希ちゃんに比べたらまだまだですけどね。それなりの気持ちは持ってます」
「勇次くんはどの選手がお気に入り?」
「そうですね、松井大輔かパク・チソンか、黒部にも注目したいですね・・」
「ちょっと!それってサンガの選手じゃん!」
沙希ちゃんはベットで寝ている僕に跳び乗り、布団を頭から掛けてきた。
「ギブ!ギブ!ギブ!」
「ちゃんと言いなさいよ!誰!?言わなきゃ許さないんだから!」
「参った!降参。船越!船越選手・・」
「船越優蔵かぁ・・じゃあ12番だね、勇次くんの背番号」
「12番ですかぁ・・」