「篠原さん何飲みます?」
狭い部屋に案内されて向かい合って座ってから唐突に聞いた。
「生ビール・・かな?」
部屋のインターホンで生ビールと烏龍茶を注目する。
「え〜、勇次君飲まないの?私一人で飲んでも面白くないよぉ」
「車なんですから飲めないですよ。篠原さんは遠慮しなくて良いですから飲んで下さい」
「つまんないなー」
篠原さんが少しむっとした表情で言う。
「大体さぁ、誘っておいてこの仕打ちは無いと思うんだけど」
「僕も篠原さんがまさか一人で来ると思って無かったんです」
「一人で来て迷惑だった?それならそうと言ってくれれば良かったのに。ウキウキして出掛けて来て恥ずかしいよ・・」
「あ、いやそんな事は無いですけど・・」
部屋のドアがノックされ微妙な空気の漂う空間に生ビールと烏龍茶が運ばれて来る。
「とりあえず乾杯しましょうか・・」
「しない」
「ええ!乾杯しましょうよ」
「やだ、しない。勇次君飲まないんなら私も飲まない」
篠原さんは完全にむくれてしまったようだ。
この状況はまずい。今から切り出そうと思ってる話さえ出来ないような状況だ。
(代行呼べるよな?)
「分かりました。飲みましょう」
インターホンを取り、生ビールを注文した。
今日の僕はどうかしていた。初出勤で張り切り過ぎていたのかも知れない。主任に対して脅すような真似をして、少し気持ちが高ぶってしまっていたのだろうか。
カラオケボックスの音の無い部屋に生ビールがもう一杯運び込まれて来た。
「じゃあ今度こそ乾杯!」
篠原さんは渋々ながらもジョッキを持ち上げ、二つのジョッキの重なる音がした。
二人ともが少しずつ生ビールを飲む。
「何か食べますか?お腹は空いてません?」
「それより――」
篠原さんが身を乗り出して言う。
「今日は何事?とってもデートって雰囲気でもなさそうだし、電話でも理由を話してくれなかったけど」
こんな空気の中で話を切り出し難かったが、篠原さんから振ってくれたのはありがたい。
「篠原さん。まだ仕事してないですよね?」
「してないけど?」
「また僕としませんか?仕事」
「えっ?」