「ここでなくったってて、そんな事出来る訳ないじゃない。『H・O・S』の名前さえ出さなきゃなんとでもなるけどさ」

「それじゃあ意味が無いんですよねぇ」

「勇次くん、何するつもりか知らないけど諦めた方が良いよ。この業界じゃ『H・O・S』使うとこなんて無いからね」

「何でです?そこを何とかお願いしますよ。・・『果樹江悶』のあの子何てったっけなぁ?」

「ちょっと!どこからそんな話・・」

「いやいや、僕も男ですから、主任の気持ちも良くわかってますよ。ただご家族の方が何て思うか・・」

「分かった!分かったから少し時間をくれないか!」

「良いですけど、あんまり待てませんからね。あ、その名刺捨てて構わないですよ、どうせ下書きの物なんで。じゃあ連絡お待ちしてますから」



僕はそう言って建物の扉を引いて外に出た。
奥手に増設予定の建屋がほぼ完成の姿を見せている。

(主任、ごめんなさい。でも僕も背に腹は代えられないんです・・)

人の良い主任をハメるような真似をして少しだけ心が痛んだ。




ステーションワゴンに乗り込んでから携帯を取り出し、電話をした。
呼び出し音が三回でその人は電話に出た。

「もしもし、勇次君!」


懐かしい声が受話器から聞こえてくる。

「篠原さん、元気ですか?久しぶりにカラオケでもどうですか?」






篠原さんと連絡が取れ、南大分のカラオケボックスで待ち合わせをした。
時刻は午後6時前。
詳しい話はしなかったが、仕事をしていればこの時間にカラオケボックスは無理だろうと踏んだ。

(彼女はまだ仕事をしていない――)




カラオケボックスには僕の方が早く着いたようだ。
複合施設の共同駐車場に車を停め、階段を昇りカラオケボックスのロビーで彼女がやって来るのを待った。

篠原さんが現れたのは僕より遅れる事20分。タイトなミニスカートに薄手のコートを羽織っている。
メイクにも時間を掛けたと見えた。

「あれ?よう子さんは?」

一緒だと思ってたよう子さんの姿は無く、彼女一人だった。

「うん、彼女入院してるみたい・・」

「どうしてまた・・」

「詳しい事は分からないの。ただそう聞いただけだから」