「綾蓮さん、そんな事まで僕に話しても良いんですか?」

「勇次さんが何か聞いてきたらちゃんと話してあげなさいって言ったのは原田社長だわ。あなたも那比嘉グループとは因縁があるそうね?」

「因縁って、そんな大袈裟なもんでもないですよ」

「でも何で那比嘉道三は原田社長の旦那さんを?」

「さあ?それが解れば苦労はしないんじゃないかしら?」

「それもそうですね・・」



ここまで話したところで来々軒の出前が届いた。
これを潮時にと僕と綾蓮さんはこの話を止めた。

ただ僕の頭の中では赤いドレスを着た那比嘉さんの姿が消えずに残っていた。




午後からは午前中書き留めた企業の電話番号を元に電話を入れてみた。

どこもかしこも反応は薄い。中には『H・O・S』を名乗っただけで担当者にさえ取り次いで貰えないような会社もあった。

(那比嘉グループの手の内か・・)

僕は首をぐるぐる回してから椅子の背もたれに身体を預け、天井を仰いだ。

目を閉じ大事な事を思い出すように努力する。


頭の中でふと甦ってきたのは前の会社で担当していたB社の事だ。
人当たりのよい人事の方の顔が思い出された。

(近々ラインを増設するって話しあったよなぁ・・)

B社は大手カメラ会社の下請けの工事だ。
デジカメの好調な売り上げでフル稼動生産でも追い付かないよと話しをしていたのを思い出した。

(今午後4時半か・・急いで向かえば会えるかもな・・)

「社長!ちょっと一軒回って来たいんですがよろしいですか?」

「どこ行くの?」

「B社です。近々ライン増設するって話し思い出しました。良いですよね」

「良いけど、まだ名刺も刷り上がってないわよ?それでも良いんならどうぞ」

「名刺ならここに見本用のなら2、3枚あるけど持って行く?」

「綾蓮さん!さすがに気が利きますね!それ、いただきますよ」

僕は下書きの名刺を3枚受け取ってカードホルダにしまった。

「何時までに戻れば良いですかね?」

綾蓮さんに聞いた。

「私は6時に帰るわ。後は社長の都合ね」

「あら?私は今日の夜はいないわよ。言って無かった?」

「じゃあ、勇次さんは直帰で良いですね、社長」