「勇次さん、お昼は?」
綾蓮さんの言葉にはっとして僕は首を横に振った。
「近所のラーメン屋さんに出前頼むけどどうする?」
「あ、じゃあ僕も頼みます」
「野良さんは?」
「私は結構です。ちょっと出掛けて来ます。社長には言ってありますから」
「そう。じゃあ勇次さん、これメニューね」
綾蓮さんから来々軒のメニューを渡され、僕は中華丼を頼んだ。
「もしもし『H・O・S』ですけど、中華丼一つと坦々麺一つ。坦々麺はうんと辛くして下さい」
(うんとって・・)
出前を頼み電話を置いた綾蓮さんに恐る恐る聞いてみた。
「あの・・綾蓮さんて、日本人じゃないですよね?」
「そうよ。私はコーリャンよ、それが?」
何か?とも言いたげに僕を見つめる綾蓮さんは特に怒っている様子では無かった。
「学生時代に交換留学生として日本に来た私に良くしてくれたのが、ホームステイ先の原田社長の義父と義母だったの」
「義理の・・ですか・・」
「そうよ。旦那さんが亡くなった後にこの会社を引き継いだと聞いて何か力になれるんじゃないかって、再び日本を訪れたのが2年前よ」
「ちょ、原田社長の旦那さん亡くなったって・・」
「亡くなったって言うか殺されたんだけどね・・ニューヨークに旅行に行ってて・・警察は単なる強盗で済ませたみたいだけど、原田社長は犯人を自分の父親だと信じて疑ってないわ」
「え!?」
「ちょうど現場に居合わせた2歳になったばかりの千尋ちゃんは殺されなかった・・代わりに声を失ってしまったわ・・」
「千尋ちゃん・・」
「ただの強盗ならそんな小さな子を殺すのなんて訳無かったでしょうにね。それからの原田社長は父親と縁を切って今も復讐を誓っているわ。警察には相手にされなくてもいつか自分がってね・・」
「そ、その父親って・・」
綾蓮さんはひと呼吸置いてから言った。
赤いルージュをひいたその唇で。
「那比嘉グループ代表取締役、那比嘉道三よ――――」
「え・・」
僕は息をするのも忘れるくらいに驚いた。
(那比嘉って・・じゃあ、原田社長とあの那比嘉さんは姉妹だと言うのか・・しかもその父親に旦那を殺されたって・・)