「野良と綾蓮は紹介済みだわね。樫元くん、田中さん、今日の予定は?あ、勇次くんはデスクに戻って良いわよ」

樫元さんと田中さんは僕と入れ違うようにして社長の側に立つとそれぞれが今日の予定を報告していた。

僕はそれを横目で見ながらデスクの上の求人情報誌を眺めていた。

(何なんだろうな?誰かの忘れ物か?)

僕は社長達の会話の邪魔にならない程度の小声で背中越しに座っている綾蓮さんに聞いてみようと思った。

「綾蓮さん、この求人情報誌って何です?」

「求人情報誌は仕事を探している人が見る物でしょ?企業がお金を払ってまで求人をしているって事よ。うちの会社で働きませんか?ってね」

「はあ・・それは分かりますけど・・」

「あのね、企業と求職者を結ぶ掛橋が私たちの仕事でしょ?だったら企業に紹介してあげなきゃ『うちのスタッフは如何でか』って」

(なるほど。これを見て営業しろって訳か!)

僕は求人情報誌をパラパラっとめくり、どんな求人広告が出ているのか見てみた。

(うわぁ、派遣会社ばっかりだな・・派遣会社に派遣するなんて事に成り兼ねないな、こりゃ・・)

「綾蓮さん、うちの会社で扱うのは事務系だけなんですかね?」

綾蓮さんは度重なる僕の質問にイラっとしたのか、

「You Understand?」

と言った。

(うあ、英語かよ・・自分で考えろってか・・)

しかし自分で考えても無駄なのは分かり切っている。
ここは社長に聞いてみる事にした。

樫本さんと田中さんの報告は既に終わり、二人共自分のデスクに戻っている。

僕は一冊の求人情報誌を手に持ち、原田社長の座っている机の前まで歩み寄った。

机の側では千尋ちゃんが大人しく絵本を読んでいる。

「社長、うちの会社で扱っていいのは事務職だけなんですか?例えばここ」

僕は求人情報誌を開いて社長の机の上に置き、説明した。

「この派遣会社の募集しているこの職種なんですが、製造業としか書かれてません。ですが、勤務時間等を考慮すると派遣先はおおよその予想がつきます。一度に大人数とはいきませんが、少人数から増やしていければ面白いかも知れません」

「製造業ねぇ・・」

原田社長は浮かない顔をしてこう言った。