大きな声が僕の耳にいきなり飛び込んできた。
千尋ちゃんは入口にその男の姿を見ると再び机の影に隠れてしまった。

その男の身長はゆうに180cmを越え、がっちりとした体格はラグビー選手を彷彿(ほうふつ)とさせた。

「千尋ちゃん、そりゃないっすよ・・」

体格に似合わない情けない声で言う。

「おはようございます」

ラグビー選手の後に続いて入って来たのは、長いであろう髪を後ろで一つに纏(まと)めたスラリとした女性だ。

(こ、これが体育会系の二人か・・)

二人は僕に目もくれず、と言った様子でそれぞれのデスクに着いた。

それから少しして秘書の野良さんと事務員の綾蓮さんが入って来るまでは誰も口を開く者はいなかった。


「全員揃ったわね。勇次くんこちらへ」

原田社長は自分の机の前に出て来ると側に来るように僕を呼ぶ。

「二人に紹介するわ。勇次くん。今日からあなた達の仲間よ。よろしく頼んだわよ」

「うっす」「はい」

「じゃあ、勇次くん自己紹介をして――」

(来た。僕はこの自己紹介ってのが一番の苦手だ・・)

目の前のデスクに座る二人は僕を品定めでもするかのように視線を外す事なくじっと見てる。
その二人の少し後ろには綾蓮さん。
野良さんは右手のソファーに座ってた。

そして真横に原田社長。
その横に小さな先輩。

誰もが僕の言葉を待っている。


緊張の瞬間―――。


「あ、あの、勇次と言います。ふつつか者ですが、一生懸命やります。どうかよろしくお願いします」

深々と頭を下げたところで誰かの吹き出す声が聞こえた。

「ぷっ!・・ふ、ふつつか者ってあんた・・」

「くっくっく・・」

「ふつつか者って、初めて聞いたわ・・くっ・・」




(や、やっちまった・・)


「ま、まあ良いわ。そこの二人もお願い」

原田社長の言葉に促されるように二人は立ち上がるとそれぞれの自己紹介を始めた。

男の方は樫元大(まさる)。28歳、独身。大学時代は柔道でインカレで三位になった事があると言う強者。

女性は田中千恵美、25歳。同じく独身。学生時代は陸上のハイジャンパーでならしたと言った。

(なるほど、体育会系か・・)