『ピンポーン!』
夕方、部屋のチャイムが鳴ったが僕は手が離せない。
さっき近所のスーパーで買ってきたばかりの『関サバ』と格闘中だったから。
「はーい!沙希ちゃん?開いてますよ!」
「あれ?開いてる?勇次くんいるの?ただいまー」
玄関から独り言のような声が聞こえ沙希ちゃんが帰ってきた。
「お帰りなさい。ちょっと今手が離せなくて・・」
「あれ?下に車が無かったから、てっきり出掛けてるのかと思ったよ。あたし停めたけど良かった?」
「ああ、駐車場この近くにもう一台分借りたんです。僕のステーションワゴンはそこに停めました」
「駐車場借りたの?」
「それから、そこのテーブルの上」
僕はソファーとテレビの間にあるテーブルを指し示し、
「この部屋の鍵です。沙希ちゃんに持ってて貰おうって、思います――」
関サバの片身の皮を剥ぎながら言った。
「駐車場・・鍵・・」
沙希ちゃんはキッチンカウンターの側に突っ立ったままだ。
「勇次くん、ありがとう・・」
「ほら、ぼーっと立ってないで、着替えて手伝って下さいよ」
「何?してるの?」
「今夜のディナーこしらえているんです。後はこのサバを刺身と塩焼きにするだけなんですけど――」
「勇次くん、あたしより料理できるんだね・・あっ!シャンパン買ってきたんだった、お祝いに」
「気が利いてるじゃないですか。じゃあ冷蔵庫で冷やしておきましょう。ほら早く着替えて」
沙希ちゃんはカウンターの上にシャンパンを置き、それからテーブルの上の合い鍵を摘み上げて寝室へと入って行った。
僕と関サバの格闘も終わりを迎えた。
「ふーっ・・食べましたねぇ・・」
「あたし後片付けするから、その間にお風呂入っちゃって」
「はい・・」
テレビの中では結構長く続いているバラエティー番組の司会者とゲストの掛け合いが面白く、僕はそれを見ながらソファーにゴロンと寝そべった。
「ほら!食べてすぐ横にならない!牛になっちゃうよ!」
「もー・・うるさいなぁ・・」
「ぶつぶつ言ってないでお風呂入ってよ!」
「はいはい・・」
「はいは一回!」
幸せだなぁ、と思った。