「失礼しました、『H・O・S』の社長をしております原田真理と申します。さ、どうぞお掛けになって」
呆気に取られた僕はいつの間にか立ち上がっていた。その僕にソファーに座るように言ってから野良さんに書類を受け取り、自分は一人掛けのソファーに座る。
書類は僕の書いた履歴書と職務経歴書。
女性社長はお愛想程度に僕の履歴書をさっと見た後に言った。
「見た通り我社は小さな会社です。でも私は小さいままで終わらせるつもりはないの。現在我社で働いている派遣は約80名。そのほとんどは消費者金融であったり、銀行であったり証券会社と言った、いわゆる金融業界をメインにしています。中には中小企業の事務もいない事はないけど、ほんの数名。知っての通りこの派遣業界は既に飽和状態でしょ?大手の派遣会社に比べて我社のような小さい派遣会社は淘汰されて行くわ。何か手を打たないとね。そこであなたのような若くて野心家の人が必要なのよ。うちは管理や教育だけでなく営業もやって貰うわ。それで良ければ明日からでも来て欲しいと思ってます」
女性社長はまくし立てるように一気に喋ると僕の目を一直線にじっと見つめる。
濁りの無い澄んだ瞳の奥に炎が見えたような気がした。
「僕は――」
「何?聞きたい事があればなんなりと」
僕はこの女性、沙希ちゃんに似てるな。って思っていた。
もちろん容姿や年齢などは似ても似つかないが、なんとなくそう感じていたんだ。
「僕は営業などした事もありません。やっていけるかも自信がありません。それでもここで働きたいと思います。それでも――」
「あら?最初から経験者などいないんじゃないかしら。初めてがあるって素敵な事よ、そう思わない?」
僕の言葉を遮(さえぎ)って話す女性社長の目はキラキラと輝いていた。
(まいった・・この人は本物だ・・)
僕はこの女性社長に心を奪われてしまった。この人の下で働ければきっと楽しいんだろう。
いや、楽しくはなくてもきっとやり甲斐はあるんだろうな。
僕は決断した。
「わかりました。明日からお世話になります。よろしくお願いします」
「そう!良かったわ!綾蓮(あやれん)」
女性社長は手招きで女性事務員を呼んだ。
「条件面など詳しい事はこの人に聞いてね。」