大分市中心部をちょっと外れた場所に『H・O・S』はある。
ここだと車がなければ不便だろう。

午前10時を少し回ったところで僕は『H・O・S』に到着した。
10階建ての賃貸マンションの1階に『Harada Office Service』の看板が出ている。

道路側を全面磨りガラスで覆われ、その真ん中に事務所への入口があった。

僕は『H・O・S』と書かれた駐車スペースにステーションワゴンをバックで停めてからその入口のドアを押して入った。

目の前に部屋の半分を仕切るようにしてカウンターが置いてある。
そのカウンターの上には『H・O・S』を紹介した簡単なパンフレットが陳列されてある。

カウンターの奥のおよそ20畳のスペースに事務用のデスクが整然と並べられ、一番奥に立派な黒亶の机が置いてあった。

視界を遮(さえぎ)る間仕切りのようなものは一切なく、開放された空間に社長の潔ささえ感じた。

いち早く僕に気付いた女性が僕の前まで歩み寄る。

「こんにちは、勇次さんですね。こちらにどうぞ」

通された先には一組のソファーセットがあり、そこの長い方の椅子に僕を面接した男性が腰を掛けていた。

男性は僕を見止めると椅子から立ち上がり、軽くお辞儀をした。

「いやぁ、わざわざ御呼び立てして恐縮です。さ、こちらに掛けて下さい。今すぐに社長をお呼びします」

40代と思われる男性の丁寧な言葉遣いにいささか緊張をしながらも僕は譲ってくれた長い方のソファーに腰を降ろした。

「社長?今見えられました。はい、よろしくお願いします」

男性はどこかに電話をした後、黒亶の机から何かの書類を手に取り、僕の傍(かたわ)らにスッと立った。

黒亶の机の左手にはマンションの通路へと続くであろうと思われるドアがあり、その向こうで何やらドタバタと音がしたあとドアが開き一人の女性が姿を見せた。

その女性は腰をさすりながら入って来るなり、

「ちょっと野良(やら)!そこの段ボール片しといてって言ったでしょ!まったく、躓(つまづ)いて腰打っちゃったじゃない」

「すいませんでした社長、しかし毎回毎回躓くのもどうかと・・」

野良と呼ばれた男性がそう答えると、30代と思われるもう一人の女性がクスっと笑った。