「じゃあ、今夜も泊まるからね」
「そんな事ばっかりしているとお母さんに叱られちゃいますよ?」
「大丈夫だよ。あたしがいない方が妹も受験勉強はかどるんだって。お母さんも二人の面倒見るより助かるって言ってた」
「本当ですかぁ?」
「何よ、疑うんならお母さんに電話しなさいよ。じゃあ行ってきます。あ、面接の結果分かったらメールしてね。行ってきまーす」
慌ただしく出て行った彼女を見送った後、手持ち無沙汰な僕はとりあえずと言った感じで部屋の掃除を始めた。
充電器に繋がったままの携帯が鳴るまでにはまだ時間があるだろう。
普段はあまりしないベットの下やソファーの下、洗面所などを磨いてゆく。
一通り掃除機をかけ部屋を見渡す。
あまり物の置いていない殺風景な部屋だった。
(二人で暮らすにはちょっと狭いな。引越しも考えておくべきかな?でも仕事の方が先か・・)
僕はまだ見ぬ未来を頭に描いて一人でニヤニヤしていた。
ちょうどそんな時に携帯の着信音が鳴り響いた。
(来た!)
咳ばらいをして喉の調子を整えてから折りたたみ式の携帯を開いて見た。
『H・O・S』
発信者は『Harada Office Service』からだ。
「はい、もしもし・・」
「あ、わたくし『H・O・S』と言う者ですが、勇次さんの携帯でよろしいですか?」
男性の声で『H・O・S』を名乗った人は多分僕を面接した人だろう。
「はい。勇次は僕です。間違いありません」
「あ、先日はどうもありがとうございました。でですね、勇次さんの事を社長に報告をした結果、是非社長がお会いしたいと申しまして。つきましては今日、急で申し訳無いのですがご足労願いませんでしょうか?」
「今日、ですか?」
「はい。二次面接と言う訳でもないんですが、直接社長がお話になりたいと。大手の会社でもないのに仰々しくて申し訳ありません。如何ですか?」
「いや、全然構いません。で、何時に伺えばよろしいのでしょう?」
「できればすぐにでも―――」
こんな成り行きで僕は再度『H・O・S』を訪問する事になった。
女社長直々に話したい事って何なのだろう。
僕は言われた通りにすぐに『H・O・S』へと車で向かった。