僕は沙希ちゃんの言葉にちょっと考えてから真顔でこう言った。

「他の男の事はよく分かりません。だけど僕は沙希ちゃんがどんな物を着てようが沙希ちゃんの事が好きです。わざわざそんな格好をしなくったって沙希ちゃんに惚れてます」

「勇次くん・・」

「おいで・・」

僕は寝ているベットに彼女のスペースを空けてから片手を彼女の方へ差し出した。

彼女がそこへ滑り込むように横になると僕は静かに被さってゆく。

肌の触れ合う湿った音と、布の擦れる乾いた音が部屋の中を満たしていった。






明け方、僕はまだ寝ている彼女を起こさないようにして着替え少し離れたコンビニまで行った。

ここのコンビニは製パン場があり、焼きたてのパンを買う事が出来る。

おいしそうなパンを数個と牛乳、それにスポーツ新聞を買いアパートへと戻った。

キッチンに入り、フライパンを火にかけ、サラダ油をひいてから卵を落としてゆく。
「ジュワッー」と言う音と共に卵の焼ける良い匂いが部屋の中に充満する。

目玉焼きを皿に取り分けてから僕はソファーでスポーツ新聞に目を通した。

「今日から十月かぁ・・」

誰に言うともなく一人呟く。

スポーツ新聞には連日報道されてる政治家のスキャンダルと芸能人の色恋話が紙面を飾っていた。

新聞を読み飽きた頃になっても沙希ちゃんは起きて来なかった。

余程疲れているんだろうが仕事に遅刻させる訳にはいかない。
僕は寝室のドアをそっと開け、中の様子を伺った。

案の定良く眠っている。彼女はこちらに背中を向けていた。しかしここは心を鬼にして起こさねば。
僕はベットに近付き沙希ちゃんの身体を揺すった。

「沙希ちゃん、沙希ちゃん!沙希ちゃん!!」

彼女はゴロリと身体をこちらに向け、

「うーん。おはよぉ、今何時?」

背伸びをしながら言った。

「7時ですよ。パン買って来ました。早く食べて仕度しないと」

「うん・・でも・・あと5分だけ・・」

そう言ってまた寝ようとする。

「あ、ダメダメ。ほら早く起きて」

「いやぁぁぁ・・じゃあ起こして・・」

「ちょ、頭引っ張らない!」

「うーん・・」



写真の中の僕の母親は笑っていた。