『俺は君を、もうこれ以上傷付けたくないんだ』
あたしに聞き取りやすいように、高遠先輩はゆっくりはっきりとそう言う。
『たしかに今までは、何も考えずに行動してきた。それで君を傷付けていたとしても、構わないと思っていた……』
伝えられる言葉ひとつひとつに、あたしの胸はチクリと痛む。
やっぱり高遠先輩は、あたしがどう思っていようと、そんなの気にしていなかったんだ……。
『でも今は違う、君を大切にしたい……』
沈んだ気持ちの中に入り込んできた、少しの希望。
“大切にしたい”
だけどそれは低く響く声で伝えられたからなのか、どうしてか素直に嬉しい言葉として受け入れられない。
「っ、じゃあ……」
それでも少しの希望を胸に見上げた先には、伏せられた暗い瞳があって……。
『……違う、だからもう会わない方がいいんだ……』
重々しく開かれた口から、小さく漏れた言葉。
「ど、して……?」
暗い瞳を見つめてそう問うけど、答えはもらえずに、視線を逸らされる。
「っ……嫌です……、あたしは、そんなの嫌です……!」
あたしの気持ちを知っているくせに、どうして貴方はあたしを突き離そうとするんですか……?
好きだと伝えても、いつもあたしを突き離す言葉ではぐらかして。
でも、それでもいいって何度も言っているのに……、結局貴方は肝心な事も教えてくれずに、あたしとさよなら?
……そんなの許さない、あたしだって、いつまでも貴方の言う事ばかり聞いていられないんだから……!
「――もう嫌なんですっ……隠さないで下さい……!!」
視線を逸らしたままの高遠先輩の胸ぐらを掴んで、真っ直ぐに見つめる。
あたしはもう逃げない、何を言われても受け入れるから……隠さないで、真実を教えて欲しい……。