『那智……、どうして君はいつもそうなのかな……』
顔を見なくても容易に想像出来る、高遠先輩の表情。
こんな風に小さく笑った時は、困らせている時……。
それを想像して顔を上げられずにいると、不意に、大きな手があたしの頭の上に乗せられた。
そしてその手は、くしゃくしゃとあたしの髪を優しく撫でる。
それをされてもなお、あたしが口を閉ざしていると、また小さく笑われて。
なんだか申し訳なくて……ギュッと目を瞑って、高遠先輩の手を退かそうと手を伸ばした、その時……。
『……別にいいんだよ、那智は那智なんだから』
穏やかな声に、あたしは顔を上げた。
見上げた先には困ったような、だけど優しげな微笑みがあって。
『那智さ、損な性格だとか言われない?』
「え、え……?」
あたしの頭を撫でながら、少しだけ首をかしげてそう問う高遠先輩は、あたしを真っ直ぐに見つめる。
その眼差しがあまりにも真っ直ぐで、あたしはなんだか恥ずかしくなって視線を逸らした。
「べ、つに、言われた事ないですけど……」
『そう? じゃあ俺だけかな、そう思ってるのは……』
そう言うと一度あたしから視線を反らして遠くを見つめ、再び向き直ると小さく頷いて……ふと、呟いた。
『損なんだよ那智は。だから俺に捕まったんだって、気付いていないの……?』
「……え……?」
あまりにも唐突な、小さな呟き。
だけどそれは、あたしの耳には鮮明に。
他の音さえ聞こえなくなったような、そんな錯覚に陥る程に鮮明に聞こえた。
今、なんて……?