* * *
『何が欲しい?』
「……え?」
――あれからしばらくは、お互い無言で歩いていた。
それでも高遠先輩があたしの手を離す事はなくて……正直な気持ち、それだけで嬉しかった。
突き離すような態度をとられた後でも、この手を離さずにいてくれていた事が、例えそれがただの拘束だとしても、あたしはそれだけで充実……。
「えっと……何が、ですか?」
いつも通り少しだけ前を歩く高遠先輩の顔を、下から覗き込んでそう問いかけると、視線だけをあたしに向けて、小さく笑われた。
『お詫び、今日は何かご馳走するって言っただろう? 何でもいいから、とりあえず言ってごらん?』
そう言われて、あたしは少しだけ考える。
だけどあたしは別に、何かが欲しい訳じゃない。
ただ高遠先輩が一方的にご馳走すると言っているだけだし……。
「……えっと……あたしは別に、何もいらないです」
『……何も?』
「はい、……それより、どうしてあたしに何かをご馳走してくれるんですか?」
そう問いかけると、高遠先輩は小首をかしげてあたしを見た。
『それは……だってこの前、俺が理由も言わずに帰ったから……』
「そんなの、別にいいんです……っ」
先に帰ってしまった事なんて、……一緒に帰れなかった事なんて、あたしはそんな事気にしてない。
……と言ったら嘘になるかな……、たしかに少しはどうしてって思ったけど、それは違う意味で……。
「先輩は、どうしていつもそうなんですか?」
『……何が?』
見上げた先の高遠先輩は、本当にわからないという感じに顔をしかめる。
「だから、その……」
『那智は何が言いたいの、はっきりしてくれなきゃわからないだろう』
「っ……」
少し苛立ったような声色であたしを急かす高遠先輩に、言葉が返せない。
あたしが俯くと、小さく笑いが漏らされた。