速足で廊下を進む後ろ姿は、なぜか少し哀しげで、なんだか怖くて……。
「先輩っ、……高遠せんぱい……っ!!」
何度呼んでも、振り返ってくれない。
「待って、下さい……っ!」
引き留めようと伸ばした手は、軽くかわされる。
どうして……、どうしてあたしを避けるんですか……!?
「っ、せんぱぁい……っ」
追いかけたら、無意味なの?
あたしが追いかけて、貴方が逃げるのなら……もうだめなの?
「っ、……ふぇ、っ……」
追いかける事をやめ、立ち止まって溢れ出る涙を拭っていると……ふわりと、柔らかな温もりに包まれて。
『――……ごめん……、お願いだから泣かないでよ……』
小さくかすれるような声が耳元に届けられると、遠慮がちに、でも強く優しく抱きすくめられた。
――貴方は、いつだってそう……。
あたしを突き離しては、優しくして……。
「っ……ど、して……?」
貴方がわからない。
貴方の矛盾が、……突き離しては優しくする、その曖昧さが……わからなくて、酷く哀しくなる……。
『……ごめん、行こう』
抱き締めていた腕の力をゆるめ、あたしの両肩に手を置いてそっと離すと、高遠先輩はすぐに顔を背けた。
そしてあたしの手を取り、歩き出す。
あたしの問いかけは、答えをもらえないまま虚しく掻き消されて……それでも、もう一度問いかける事が出来なかった。
拭いきれずに残っていた涙で滲む視界で見た高遠先輩の背中が、“まだ聞かないでくれ”と、語りかけているように見えたから……。