『……那智はさ、今みたいに高遠先輩を見てどんな気持ちになる? ドキドキしたり、ポーッとしたりしない?』
そう問われて、あたしはまた高遠先輩を見てみた。
たしかに高遠先輩を見ると胸が締め付けられて、なんとも言えない気持ちにはなるけど……。
「これが恋なの? これが好きって事なの?」
ただドキドキする事が、恋に繋がるものなの……?
窓の外を見下げたままのあたしに、千歳は静かに言葉を口にした。
『好きってどういう事なのかとか、それは人それぞれ違うと思う。だから那智が“この人が好きだ”って思う瞬間がきたら、それが好きって事なんだと思うよ』
意外と真面目な千歳の言葉に、あたしは思わず横に立つ千歳を見上げた。
あたしが“好き”って思えたら、それが好きって事なの……?
あたしのそんな無言の問いに、千歳は小さく頷く。
『好きって決めるのは那智自身だよ。誰かが決めるものじゃないの』
「……そっか、自分が好きなんだって気付いた時が好きって事に、……恋に繋がるんだね……」
それなら……あたしが今、高遠先輩をどう思っているのかとか、そんなのは気にしなくてもいいや。
あたしはただ、高遠先輩を見るのが好きなだけ。
それが恋なのかなんて、わからないから気にしない。
あたしはそれでいい、今はこうして遠くから見つめているだけで、……ただ姿を見つけて嬉しくなるだけでいい……。
あたしはそのまま、休み時間の終了を告げるチャイムが鳴り響くまで、グラウンドに出ている高遠先輩を見つめ続けていた。