『ふふふっ、やだなぁ……恥じらわなくてもいいじゃない!』

あたしが俯いたのを見て、照れたんだと思ったのかな……。

千歳は満面の笑みを隠すように口元を手で覆い、肘であたしをつついた。

でも対するあたしと高遠先輩は、お互いに視線を落としたまま。

そしてふと、高遠先輩は小さな声を漏らした。

『那智は、わかりやすいよね……』

その重々しい声色に、あたしは思わず息を呑む。

チラリと視線を向けると、高遠先輩は伏せた瞳を長めの前髪に隠して、ほんの少しだけ笑っていた。

――と言うより、自嘲しているように見えた。

「……っ……」

言葉が出てこない。

体が硬直する。

どうしよう……もしかしてあたし、高遠先輩を傷付けた……!?

身に覚えがないのにそんな気持ちになってしまったあたしは、つい……反射的に繋いでいた手を離してしまった。

――それがあたしの、失敗だったのかも知れない……。

『……那智、……そうか、ごめん……』

あたしに離された手を見つめて、何かを悟ったかのように一度小さく頷くと、高遠先輩はあたしから顔を背けた。

『あれ、えっと……?』

重々しくなった空気に、千歳は頭上にはてなマークが見えそうなほどの疑問の表情であたし達を見る。

『……那智、そろそろ帰ろう』

「え? あっ……先ぱいっ……!?」

居たたまれなくなったのか、高遠先輩はあたしに目もくれずに先に教室を出ていった。

「ま、待って下さいっ、先ぱ……、高遠先輩……! ごめん千歳、また明日ね……!!」

『ぅえ? あ、うん、また明日……』

きょとんとしている千歳に手を振って、あたしは高遠先輩を追いかけた。