『――那智、お待たせ』
放課後になって教室にいると、約束通り高遠先輩があたしを迎えに来てくれて。
『行こう?』
そう言って差し出された手を、あたしはそっと握り締める。
『うわっ、那智ったら見せつけー? 羨ましいなぁもうっ!!』
そんなあたしを見てニヤニヤする千歳に、あたしが思わず赤くなると、頭上から柔らかな笑い声が漏れた。
『クスッ、……何赤くなっているの』
そう言ってあたしの髪をくしゃくしゃと乱す高遠先輩に、あたしの心臓は速度をあげる。
「だっ、て……っ……」
反論するように高遠先輩を見上げると、そこには優しげな微笑みがあって……その表情に、あたしは息が止まりそうになった。
どうして貴方はまた、そんな優しい表情をあたしに向けるんですか……。
『……どうしたの?』
恨めしげな表情で高遠先輩を見つめていたあたしの顔を、高遠先輩が覗き込むようにして顔を近付ける。
「い、いえっ、何でもないです……!」
だからあたしは、思わずあからさまに顔を背けてしまった。
『そんなあからさまに反らされると、なんか傷付くなぁ……』
苦笑いと共にそう漏らした高遠先輩に、あたしの胸はツキンと痛む。
その言葉が冗談だとしても、正直高遠先輩にだけはそんな事を言われたくない……。
貴方はいつも、あたしに同じような事をしているというのに……それがわからないんですか?
あたしがいつも、どんな思いで貴方のそういうところを見過ごしているかも知らないで……!
『んーなんだろう、初々しいわね……』
あたしの心情なんて勘付く訳もない千歳は、そう言ってあたしと高遠先輩を交互に見る。
どちらにも何も言えないあたしは、ただ黙って俯く事しか出来ない……。