《そういえば、
 何かご馳走してあげる
 って言ったのに
 するの忘れてたよね。

 今日は必ずするから
 教室で待ってて。》

どうして高遠先輩は、こんなにもあたしに辛い思いをさせるんだろう……。

――昨日あんな事があったばかりなのに、事の元凶である高遠先輩はそんなのお構い無し。

本来昨日済ませるはずだった事を出来なかったからと、今日またあたしを誘い出す。

《わかりました、
 それでは放課後に。》

だけど、それを断れないあたしも、どうかしているんだろうな……。

『……何、なんか不幸でもあった?』

「……え?」

携帯を見つめていたあたしに、いつも通り向かいに座る千歳が小首をかしげてそう問いかけてきた。

『や、だって辛気臭い顔してるから』

「辛気臭いって……そんな事ないよ?」

確かに色々と複雑だけど、高遠先輩と会える事は嬉しい。

例えどんな理由でも、あたしと会おうとしてくれているだけで充分……。

『えー、ほんとに何もない訳?』

目を細めて何かを疑うような千歳の眼差しに、あたしは少し視線を逸らしつつ口を開く。

「本当に、何もないよ」

高遠先輩を想う事は、いい事ばかりじゃない。

いつ酷い言葉で傷付けられるかわからない。

いつ突き離されるかも、わからない……。

それでもあたしが高遠先輩を好きになってしまったんだから、この不安も、辛い気持ちも、全て受け入れないといけない。

『那智がそう言うならまぁいいけど……嘘ついたり、隠したりしないでね?』

「……うん」

『あはは、素直でよろしいっ!!』

千歳はそう言って笑うと、身を乗り出して手を伸ばし、あたしの頭をぽんぽんと撫でた。

……ごめん千歳、あたしは素直じゃないの……。

言えないの、……本当は隠してるの。

元々言うつもりなんてなかったけど、高遠先輩とのこんな複雑な関係なんて言えない。

あたしと高遠先輩がちゃんとお付き合いしていると、素直に信じてくれている千歳には、絶対に、言えない……。