「っ、どうしてぇ……っ」

泣き崩れるあたしに、高遠先輩はただ黙って立ったまま。

慰めもなくて、触れてもくれなくて……ただ一言。

『……俺は君を、間違いなく傷付ける……』

小さくそう呟いて、あたしの前でしゃがみこんだ。

微かに震える高遠先輩の手が、あたしの髪に触れられる。

『でも那智……本当は君を傷付けたくない……。……なんて、こんな矛盾……君は呆れるだろう?』

「………」

『わからないんだよ……、君への気持ちが。でも確実に、君の存在が俺の内で大きくなっている……だから、言えない……』

切なげな声でそう言うと、高遠先輩はあたしをギュッと抱き締めた。

どうしてなんだろう……。

あたしは高遠先輩に想われていないのに、……その理由さえ教えてもらえていないのに、それでもいいと、それを受け入れようとしてしまう。

高遠先輩の傍にいるのは、辛いだけなのに……。

「……あたしは、どうしたらいいんですか……?」

――だけど高遠先輩があたしを必要としてくれるのなら、それでいい。

あたしは好きだから、傍にいたい……。

あたしの言葉を聞くと、強く抱き締めていた腕の力がゆるみ、そっと離される。

『……本当は、離れないで欲しい。だけど傍に置いていたら、確実に君を傷付ける……』

「っ、だからっ、あたしはそれでもいいんです……っ」

“傷付ける”と言いながらも、“傷付けたくない”と言う矛盾があっても。

高遠先輩があたしを離さないと言うのなら、あたしは離れたりしない。

貴方の事が好きだと気付いたその時から、なんとなく、こうなる気はしていたから……。