『君が言うように、俺はまだ彼女を忘れる事が出来ていない』

あたしを真っ直ぐに見据えて、まだ忘れられないという事実を口にされてしまうと、胸が痛くなる。

『だけど、本当は早く忘れたいんだ……』

「……え……?」

“早く忘れたい”

高遠先輩の口から出たその言葉に、あたしは思わず声を漏らしてしまった。

だって……高遠先輩は、まだ元カノを好きで。

だから忘れる事が出来なくて、あたしを元カノの代わりとして選んだんじゃないの……?

『那智、君は勘違いしているかもしれないけど……俺はね、元カノを好きで忘れられない訳じゃないんだ』

苦笑混じりのその言葉に、あたしは息を飲んで高遠先輩を見上げた。

『……那智、俺が君を選んだん理由はね……』

冷めていた瞳がいつの間にか憂いを浮かべていて、一度伏せられる。

そして少しの沈黙に、あたしが口を開いた時――……高遠先輩は、静かに告げた。

『君が元カノと、……正反対だからだよ』

「……せぃ、反、たい?」

『それから……君の事は好きなのか、正直わからない……』

――その言葉を聞いたら、あたしは一瞬頭が真っ白になった。

高遠先輩は、あたしの事を好きじゃない。

……好きじゃない……?

じゃあどうしてキスをしたの?

どうしてあたしを傍に置いておきたいと言ったの?

どうしてあたしじゃないとだめだと……切なげな眼差しで言ったの……?