『……どうしてそんな事が知りたいの?』

高遠先輩はあたしに伸ばした手を引いて握り締め、拳に視線を落としてそう言った。

「っ……だって、あたしは……」

『那智……何度も言うけど、傷付くのは君なんだよ……?』

その言葉に、あたしは先の事を勘繰って言葉を失い……それでもゆっくりと高遠先輩を見上げる。

『……俺はね、君が思っているような人間じゃないよ……』

「………」

だけど見上げた高遠先輩は、明らかにいつもと違う雰囲気で……。

『悪いとは思ってる、だけど君じゃないとだめなんだ……』

今にも泣きそうな表情、伏せられたその瞳が物語るのは、なんなんですか……?

「……意味が、わからないです……。どうして……、どうしてあたしじゃないと、だめなんですかっ……!?」

それが知りたいから問いかけているのに、そこをはぐらかされたら、意味がないんです……!

『……那智、君はそんなに傷付きたいの?』

「っ……」

拳からあたしに向けられた視線は、暗く鋭く、刺さった。

『……いいよ、そんなに知りたいなら教えてあげる』

低く響く声が、あたしに少しの恐怖を煽る。

知りたいと願った、高遠先輩があたしを選んだ理由。

だけどいざその時がくると……まだ聞く覚悟が出来ていなかった事に気付き、あたしは怯んだ。

「あの……ちょっと待ってください、あたし……」

『どうして? 君が知りたいと言ったんだろう、俺が待つ理由がどこにあると思う?』

「っ……」

向けられた冷めた瞳、無慈悲な表情、……それだけであたしは悟らされた。

高遠先輩は、本当に言うつもりなんだと。

知りたいと願った事だから、言ってもらえるのはいいんだけど……。